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講座「アートとしての数学」第18回(2004/8/28)メモ

ゲーデルの不完全性定理をめざして

ゲスト講師 : 中沢裕揮氏

現代の数学を基礎付ける公理形式と推論形式の記号表示からはじめて, 不完全性定理が言う「真であることも偽であることも証明できない命題」の具体例の提示に至るまでのあらすじを, 2時間半ほどで話していただいた。わずかな時間で, かいつまんだ話しになるのはもちろんだが, 用意していただいた 5枚のレジュメは, 後で見なおしたい人には大変ありがたい。

参加者の感想は「質問したいことが多すぎたので, いちいちたずねるのはやめて, とにかく全体の話しの流れを聞こうとした」「すぐには感想を言うほど頭が整理できていない」「とてもおもしろかった。とても難しかったが。」など。

2時間あまりで何かがわかったような気になることよりも, 頭の中にずっと気にかかるタネがまかれることが, 今回の講座の役割であると私は考えていたので, およそ予想どおりといえよう。タネから何がどう芽生えるか, あるいはしばらく眠ったままにしておくかは, 各人のことであろう。

不完全性定理について, もっと学びたい人のために本を挙げておく。下記は中沢さんが私に話してくれた本で, 3冊とも現在販売されているかどうかも確かめていないが, 他にも類書は多いと思う。


ゲーデルは1951年第1回アルバート・アインシュタイン賞を受賞した。その受賞式で, フォン・ノイマンが「ゲーデル博士への賛辞」と題して述べたことから抜粋引用する。

クルト・ゲーデルの現代論理学における業績は, たぐいまれで記念碑的なものです. ・・・・・ 本当にそれは記念碑以上のもので, 空間と時間を遠く離れたところでも目にすることのできる目標物であります. ・・・・・ 論理学の主題はゲーデルの業績によって, はっきりと完全にその性質と可能性を変えました. ・・・・・

ゲーデルは, ある数学の定理が, 一般に受け入れられている厳密な数学の手段では, 証明もその否定もできないことを示した最初の人であります。いいかえると, 彼は決定不可能な命題の存在を示したのです。彼はさらに, この決定不可能な問題の中にひじょうに重要で特別な命題があることを証明しました. その命題とは, 数学が内部矛盾しているかどうかというものです. この結果には, ある意味で逆説的な"自己否定"という点で注目すべきものがあります. すなわち数学が矛盾をはらんでいないという確信は, "数学的手段"では決して得ることができないのです. 強調しなければならない重要な点は, これが哲学的原理とかもっともらしい知的態度ではなく, 極端に複雑な種類の厳密な数学的証明の結果だということです.

・・・・・

ゲーデルが実際に証明したこの定理は, 数学だけに関係したものではなく, 現代論理学の言葉で形式化しうる, すなわち厳密徹底的な記述をもったすべての体系についてのものなのです. つまりそのようなどんな体系であっても, 内部矛盾していないことを, その体系自身の方法では示すことができないのです.

・・・・・(広瀬 健・横田一正 著「ゲーデルの世界」海鳴社 19ページ〜)