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講座「アートとしての数学」第21回(2004/12/8)メモ

前回の「比について」の続き. 以下は前もって用意したメモ.


プラトン「魂と音階の分割比」(→「ティマイオス」35節〜参照)
神が魂を工作した材料と方法. 前半はおおざっぱにいうと「有」と「同」と「異」からひとつのものを作った. それからその全体を分割してゆくのだが, 最終的に分割部分の比は,
1 : 9/8 : 81/64 : 4/3 : 3/2 : 27/16 : 243/128 : 2 (以下続くが略)・・・・・・(イ)
となった. これは, ピタゴラス音律による音階の比である.

・・・・・・(ロ)

この比を, 弦長(1本の弦を指で押さえたときの振動部分の長さ)の比であると解釈すると, 次々に鳴る音の階名は, ミレドシラソファミ.・・・・・・(ハ)

ピタゴラス→プラトンの伝統は, 宇宙, 魂, 音階, 天体, すべては比によって調和的に律せられる, と考えた.

さて, ここで自問し, かつ皆さんに問いたい. まず, 上の, (イ)数で表された分割の比, (ロ)線分で表された分割の比, (ハ)実際に弦(あるいは他の楽器)で鳴らされた音階, これら 3種をそれぞれ"鑑賞"してください. その上で, 3者から受ける感じの相違点と(もしあれば)共通点を考えてください. では, その相違点と共通点の根本的原因は何なのでしょうか ?

(3) 比の中項

二つの数 16 と 4 を仲良く仲介できる最適の数は何だろうか ?
それは 8 である. なぜか.
16 : 8 = 8 : 4
となるから.
いや, 10 である. なぜなら, 10 は 4 からも 16 からも同じ数 6 だけ離れているから. 式では
16 - 10 = 10 - 4
と表せる.
いや, ・・・・ 他にも多くの意見があるだろう.

2数を仲介する第三の数を「中項」と言い, ピュタゴラス派は10種類もの中項を挙げている. 最も古くから(B.C18世紀のバビロニア)知られた中項は次の 3種類. 与えられた2数を a, b とする.
(i)小学校でも習う 2数の平均 (a+b)/2. これは, 算術中項と呼ばれる. 算術平均, 相加平均というのも同じこと.
(ii) 幾何中項. (a×b)の平方根. たとえば, a=9, b=4 なら 9×4=36の平方根だから 6. この場合, 9:6=6:4 となるから, 幾何中項は, 元の 2数を等比的に分割する. 幾何中項, 等比中項, 相乗平均はみな同じこと.
(iii) 調和中項 2ab/(a+b).

これら 3種の中項は, たがいに密接な関係にあり, バビロニアの平方根計算法で現れ, それがギリシャに伝えられたと考えられる.

オクターブの分割

(i)算術中項と(iii)調和中項の関係だけ簡単に触れておく.
a = 1, b = 2 とすると, 算術中項は(1+2)/2 = 3/2 で, これら 3数 の比,
1 : 3/2 : 2
は, 2種の比
2 : 3 と 3 : 4 ・・・・・・(ニ)
に分けて見ることができることを注意しておこう.
一方, 調和中項は 2×1×2/(1+2) = 4/3 で, これら 3数 の比,
1 : 4/3 : 2
は, 2種の比
3 : 4 と 2 : 3 ・・・・・・(ホ)
に分けて見ることができる.
算術中項で分割されてできる 2種の比(ニ)と調和中項で分割されてできる 2種の比(ホ)とは, 逆の順序であることがわかる. (このことは任意の 2数 a, bについて示せる)

これと対応する音楽の音程について. 「魂と音階の分割比」の(イ)(ロ)(ハ)で触れた音階の弦長比から一部を抜き出し,
1(高いミ) : 3/2(ラ) : 2(ミ)
を見ると, 3/2(ラ)は 1(高いミ)と 2(ミ)の算術中項である. 1(高いミ) : 3/2(ラ) = 2 : 3 は 5度音程, 3/2(ラ) : 2(ミ) = 3 : 4 は 4度音程と呼ばれ, オクターブとともに, 世界のほとんどの音楽の基本音程である.
また,
1(高いミ) : 4/3(シ) : 2(ミ)
を見ると, 4/3(シ)は 1(高いミ)と 2(ミ)の調和中項である. 1(高いミ) : 4/3(シ) = 3 : 4 は 4度音程, 4/3(シ) : 2(ミ) = 2 : 3 は 5度音程で, 先と逆の順に 2種の比(音程)ができている.

さらに細かく音程の分割をどのようにしてゆくかが, 世界の音律と音階の歴史である.
音楽に現れる中項の他の例として, ドミソなどの3和音も, ドとソの2音の中項としてミが入ったからマイルドなハーモニーが生まれたと思う.

ギリシャ人は, 2者を仲介する第3者としての中項という想念を好み, ギリシャ数学でも中項は大活躍する. また,「2を統一する 3」は世界中普遍的なアイディアであることは, この講座でも前に触れた.

注. 先に触れた黄金分割(1 : φ = 1 : 約1.618)は,
(短い部分) : (長い部分) = (長い部分) : (全体)
となる分割であり, (長い部分)は, (短い部分)と(全体)の等比中項(幾何中項)である. 黄金分割サンプル