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新石器時代の多面体。

まず, このページを見ていただきたい。 これは, スコットランドで今から5000年ほど前に作られた石の玉である。全体は正四面体(テトラパックの形)と同様の形で, 正四面体の辺に当たるところが削られて面に当たるところが丸く突出している。各面には渦巻きが彫られている。大胆な削り方や渦模様が生み出す感覚を私は気に入っている。

スコットランドには, このような紀元前3000年〜2000年頃に作られた多面体型の石玉(stone balls)が, たくさん残っており, 面の数は, 4 や 6 から 20, 30 を越えるのまでさまざま。多様な多面体の造形としては世界最古という。コレクションとして, たとえば, Hunterian Museum のページ。紀元前3000年〜2000年頃というと, エジプトでは文明の時代に入り紀元前2600年前後にはギザの大ピラミッドも作られていたが, スコットランドはまだ新石器時代とされている。イングランドの巨石文化遺跡ストーンヘンジもおよそこの時代の建造である。これらの石玉が何のために作られたかはわかっていないそうだ。

これらの石玉の中には, 面の配置のしかたが正多面体(全5種類 ↓下図)の内の4種類と同じものも見つかっている。→正多面体型石玉(George Hart のページ)
(↓左から正4面体, 正6面体, 正8面体, 正12面体, 正20面体)

正多面体とは, どの面も同一の正多角形だけから成り, どの頂点からも見える形が同じような多面体である。古代ギリシャでは正多面体 5種類全部が知られ, 数学的に研究されている。スコットランドの石玉はギリシャでの研究より1500年以上は古いが数学的に正確な造形とは見えず, 手作業が見つけだした造形だと思う。 上記ページの石玉を面の配置のしかたで見ると左から, 正8面体, 正4面体, 正12面体, 正12面体, 正6面体である。ただし, スコットランドの古代人にとって, 正多面体型の石玉が特に重視されていた様子はないらしい。

それでも, 古代人には,「多くの方向から見て同じ形になる」ような形を求める意識がかなりはっきりあったことはまちがいないだろう。(たとえば, 正6面体=サイコロ型は, 6面のどの方向から見ても同じ形に見える。) その意識の結果が, 正多面体型の石玉も生みだすことになったのだろう。「多くの方向から見て同じ形になる」とは, 数学でいう「対称性」の一種である。スコットランドの石玉は, 立体の対称性のラフな段階での発見過程といえよう。

スコットランドでの「手作業による発見」が, ギリシャでの「数学的研究」をはるかに先行しているが, 似たようなことはたくさん見つかると思う。たとえば, 平面を無限に広がる繰り返し模様の可能なパタンが, 現代数学の群論による分類では17種類に限られるとわかったが, 古代エジプトの装飾模様にはこの17種類がすべて出そろっていたという。(参考→ヘルマン ワイル「シンメトリー」紀伊国屋書店 103ページ) 「手作業の知性」とでも呼ぶべきものがあると考えられる。


他にも石玉を見るには, "carved stone balls" などで検索を。また, すぐ上のGeorge Hart 氏のリンクページからは, 多面体工作のページへのリンクがどっさりある。

(2006年3月記す)

http://www.hunterian.gla.ac.uk/museum/online_exhibitions/stones/#top