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講座「アートとしての数学」第10回メモ

同一性のパラドックス(続), 他

前回は確率の話しでいっぱいになったので, 予定していた二について「同一性のパラドックス」の原子物理の話題からを今度こそ考える。

(終了後) 今回出た話しで, メインテーマではないけれどひとつだけ書いておきます。

ある受験生がK塾の模擬試験の結果, 志望大学の「合格確率10パーセント」と出たとする。それならば, 志望大学と同じくらいの難しさの大学を「10校受ければ 1校くらい受かる」と考え, そのための受験料, 交通費, ホテル代をドンとつぎこんでしまうとしよう。

「確率10パーセント」とは, 「そのことをたくさんの回数試せば10回に1回くらい起こる」ということだから, 上の受験生の考えと行動は合理的に見える。

確率計算をしてみたのでここに記そう。

1校につき合格する確率は 0.1 だから, 不合格の確率は 0.9。 10校すべてに不合格する確率は0.9の10乗で,約 0.349 である。したがって, 1校以上に合格する(すなわちどこかには引っかかる)確率は, 1-0.349=0.651 つまり, 65パーセント程度なのだ。

以外に思う方もあるかもしれないが, 「1校以上合格」には2校3校・・・・合格もふくまれており, 合格する校数を平均すると 1になるはずだが, どこか 1校にはほぼ確実に合格できるなんてことはない, とわかる。金をつぎこんだわりには65パーセントである。

仮に 20校受験で, 同様の計算すると, 1校以上合格する確率は 約 88パーセントになるが, 20校受験は日程的にほとんど無理だろう。

もうひとつ,「合格確率10パーセント」といわれた受験生が全員10校ずつ受けたらどうなるか ?

計算のため思いきり単純な状況設定をしておく。模擬試験において, 10校のどれにもまったく同じ学力の志望者が10人ずついて, 各大学の定員は 1人ずつだとする。また, 志望者は1校ずつしか志望していなかったとする。すると,志望者は全員で100人で全大学の定員は10人ということになる。この状況からK塾は, 志望者各人の合格確率は10パーセントと示すだろう。それを示された志望者全員が10校とも受験したとする。ところが, 確率計算するまでもなく,「志望者は全員で100人で全大学の定員は10人」ということには何も変わりないから, 各人がどこかに合格しやすくなることはまったくない。