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【注】 下記に紹介したピアジェの実験方法については, この紹介文を書いた後, 批判も多くあることを知りましたが, 私はそれらの批判についてまだ調べていません。それでも, ピアジェの実験について知るきっかけとして, 残しておくことにします。


入れ物の形を変えると液量は変わるか ?

次に紹介するのも, ピアジェのおこなった, よく知られた実験です.

子どもの液量保存認識の実験例

はじめに, 同じ形と寸法の2つの容器(A1とA2)に, 液体が同じ高さまで -- したがって同じ量だけ -- 入っているのを子どもに見せる. 次に, その一方(かりにA1とする)の中味を, 2つの小さな容器(B1とB2)に注いで移す. そして, B1とB2を合わせた液量が, A2の液量と同じかどうかを子どもに聞く. この他, 諸種の移し変えによって, 液量が変わらないかどうかを子どもに聞く. 以下に, 実験記録のほんの一部分を引用します.(図は引用者が作成)

A1(ルネ)A2(Sim)
B1B2
(ルネ)

Sim(5才) 半分ばかりはいっているコップ A1 と A2 とをみせる. 「コップの中には, 水は同じだけありますか ? 」---(彼女はたしかめてから)「ええ」---「じゃあ, 青いシロップのはいったコップをもっているルネが, そのシロップを, このように移しかえます(A1を, B1 と B2 とに注ぐ. そのため, 水面の高さは, 3/5 くらいとなる).---あなたは, やっぱり, 同じ量のシロップを飲むことができますか ?」---「いいえ, ルネのほうがたくさんあります. だって, 2つのコップにあるんですもの」

(・・・・中略・・・・・・.)

A1A2
L1

(はじめの状態にもどしてから)「じゃあ, こんどは, マドレーヌが, 赤いシロップをこちらのコップの中へ注ぎます」(A2 を L1 ヘ注ぐ. L1 は, 巾が狭くて, 背の高いコップだ. A1 では, 青い液体が, 1/2 の高さまでしか達していないのに, L1 では, 4/5 の高さをしめしている) ---「赤い方がたくさんあります. だって, 高さが高いんですもの」---「飲む量がたくさんあるの? それとも, たくさんあるようにみえるだけなの?」---「飲む量がたくさんあるんです」

(・・・・以下略・・・・)

(J.ピアジェ他著「数の発達心理学」遠山啓ほか訳. 国土社. 22, 23ページ. フランス語初版は 1941年)

Sim は, 液体の入っているコップの個数や形を変えると, 液体の量も変わると思っている. 上の記録では, 液面が高い方が多いと判断しているが, 別の子の実験記録では, コップの大きさも判断に影響することがある. いずれにしても, 直接の知覚による判断であり, 「液面は高くなるがコップの巾は狭くなるから・・・・」のように複数の知覚を調整することがない. 以上が, ピアジェの言う第1段階で,第3段階において, 「形が変わっても液量は変わらない」(液量保存)の認識が到達される. (第2段階は第1と第3の中間的段階) この実験を行った子どもの年齢は 4才から 9才にわたっている.

子どもは(我々おとなも子どもだった時), 一体, どのよう過程を踏んで,「形が変わっても液量は変わらない」(液量保存)などと確信できるようになるのだろうか? おとなでも私の知人に「平べったい容器に水を移しかえると何だか減ったような気分がする. もちろん, 形が変わっても液量は変わらないと知っているのだが」という人がいた. 誰でも, 液量保存ということを, 理科の本を読んだり実験して勉強したというわけではないだろう. ではどんな認識過程で確信するようになるのだろう. これについてのピアジェの論説は, 彼の著作で調べてください.