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講座「アートとしての数学」第23回(2005/2/24木)メモ

2項関係の分割と積み上げ

音楽の音程を例に取って言うと, 1オクターブを作る 2音の間をどう分割するかが音階を作り, 他方, オクターブという2項関係を積み上げて次々に高いオクターブができてゆく.

人間の耳は理屈の前に, 男声のドとミの音程と, 女性の1オクターブ高いドとミとの音程を, 同じ音程として感じ取ってきた. それを,
ド : ミ = 高いド : 高いミ
と記せる. これと同時に, ドと高いドの音程は, ミと高いミの音程と等しく, その音程はオクターブと呼ばれている.
ド : 高いド = ミ : 高いミ
このように, ド, ミ, 高いド, 高いミ, の4音は, 2重の等音程に支えられて感じ取られている。
また, この2本の等式は, 数の比において, たとえば,
3 : 5 = 6 : 10
ならば
3 : 6 = 5 : 10
でもあるのと同様である.

等比数列

比の累積(二項関係の再帰的積み上げ)によって 2項関係は無限に多くの項まで広がる. こうしてできる無限数列を等比数列と呼んでいる.

第20回メモから以上までの「比」の話しは, そもそも等比数列の準備のつもりで始めたのだが, 見えてきた「比=2項関係」の意味が, ほとんどそのまま等比数列の意味だろう.

等比数列の漸化式表現

例として, 3から始まり, 前の項に対し次の項がつねに 2倍になる数列,
3, 6, 12, 24, 48, 96, ・・・・・ ☆
を考える.第1項 3をa1 第2項 6をa2 第3項 12をa3 ・・・・・・ としよう.
a2=2a1
a3=2a2
a4=2a3
・・・・・
なので, これらをまとめて
an+1=2an
と表せる.すなわち, 第n+1項は第n項の2倍ということ.
★のように, 数列の近所どうしの項の関係式を漸化式(ぜんかしき)という.
等比数列☆は,
第1項(初項)の値, a1=3 と
漸化式 an+1=2an
とで, 完全に決められる.この 2本の式ははじめに書いた「3から始まり, 前の項に対し次の項がつねに 2倍になる」ということ以上何も言っていない.この2本の式だけから, 3, 6, 12, 24, 48, 96, ・・・・・ ☆という数をイモヅル式に書いてゆけるから, この2本の式が, 数列☆を決定するといえる.あるいはこの2本の式が数列☆を定義している, と言う.

他の数列の漸化式表現

初項が 1で 2ずつ増える等差数列
1, 3, 5, 7, 9, 11, 13, ・・・・
ならば, 漸化式は an+1=an+2

初項と第2項が1で, つねに, 前の2項をたすと次の項になる数列,
1, 1, 2, 3, 5, 8, 13, 21, 34, 55, ・・・・・
はフィボナッツィ数列と呼ばれている.この数列の漸化式は,
an+2=an+1+an
ところで, 先に見た等比数列 3, 6, 12, 24, 48, 96, ・・・・・ ☆の漸化式 an+1=2an ★を,
an+1=an+an
と書いて見ると, フィボナッツィ数列の漸化式とよく似てくる.

漸化式▲はそのまま, 2人またりさまの数列の漸化式である.(数の世界のまたりさま参照) ただし, またりさまでは 1+1=0 になるので, 初期条件を 1, 1, とすると,
1, 1, 0, 1, 1, 0, 1, 1, 0, 1, ・・・・・・
となる.フィボナッツィ数列の各項が, 奇数なら1, 偶数なら 0 に変わったと考えられる.
8人またりさまの漸化式は,
an+8=an+7+an

一般に, 漸化式とは次の項を求める手順を示すものだから, 「前の項に対し次の項がつねに 2倍になる」のように普通の言葉で言えばとてもわかりやすい. だから, 漸化式の数式表現がわからなくても"またりさま"はできる. したがって, このような漸化式の手順明示性は, 芸術や工芸ヘの適用に大きな可能性があるし, 手作業と数学とコンピューターの共通の技術的基盤を示しているだろう.

等比数列の一般項表現

数列,
3, 6, 12, 24, 48, 96, ・・・・・ ☆
の別の表現法について.
a1=3
a2=3×2
a3=3×2×2=3×22
a4=3×2×2×2=3×23
a5=3×2×2×2×2=3×24
・・・・・・ となってゆく.では, a100を同様の形の式で書くとどうなるか ?
a1に2を何回かけたらa100になるか考えてみると, 99回ですね. (100人の人がバケツリレイすると, バケツは何回手渡されるか? と同じ) だから,
a100=3×2×2×・・・・・・×2=3×299
これらの式をまとめると, an=3×2n-1
これが数列☆の第n項(一般項ともいう)を表す式である. ◆も 数列☆を決定する式である.
漸化式表現が, 1歩ずつたどるのに対して, 一般項の式表現は, 項数nの入力に対して項の値anをすぐ出力してみせようとする. 一般項表現の別の一例を示そう. フィボナッツィ数列の一般項は

である. この式はワリとすっきり導く方法があり, それがわかると見かけほど複雑には思えなくなる。(導出過程は省略)それでも「前の2項をたすと次の項になる」という漸化式の親しみやすい手作業性とは違って見える.