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【注】 下記に紹介したピアジェの実験については, この紹介文を書いた後, 批判も多くあることを知りましたが, 私はそれらの批判についてまだ調べていません。それでも, ピアジェの実験について知るきっかけとして, 残しておくことにします。


並べ方を変えると物の多さは変わる?

4才から7才くらいにかけて子どもが"数"をどのように発見し認識してゆくかについては, J.ピアジェ(1896〜1980頃?)による有名な一連の実験があります. 有名なはずでも知らない人の方が多そうなので, 興味を持っていただくきっかけにするため, ほんのほんの一部分を紹介します.

子どもの個数認識に関する実験例

子どもの前に, おはじきなどをいくつか一列に並べて(これが手本), 同じものを「これと同じだけ取り出してごらんなさい」と発問する. 図は見やすさのために私の解釈でつけた.

Per(5才7ヵ月)はすぐに, 手本(米粒6個の列)との対応づけによって, 6個から成る写しの列を作る.

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先生が手本の米粒の間をつめると,

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「ぼくの方が多くなった」---「どうして?」---「この列の方が長いもの」--- (逆にする)

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---「今度はそっちの方が多くなったよ. そっちの方が大きい列だもの」 しかし, すぐあとでは Per は反対のことを言う. --- 「こっち(離した方)の方がたくさん食べられる ? 」--- 「ちがう」--- 「どうして違うの ?」--- 「こっちの方が長いから」---「では, そっち(つめた方)は ? 」---「そっちは小さくかたまっている(つまっている)から多いよ」---「大きい列より小さいかたまりの方が多いの ? 」---「そうだよ」そのあと Per はふたたび長さを基準にとり, ついで, 目によって対応をつけることに成功する. 「こんどは 2つとも同じだよ」

(J.ピアジェ他著「数の発達心理学」遠山啓ほか訳. 国土社. 144ページ. フランス語初版は 1941年)

最初, Per は, 手本と同数の米粒を並べるので, これだけ見ると, Per は一対一対応による個数の等しさを知っているかに見える. (一対一対応については「数なんていらない?」と「1対1対応による数の説明」を参照してください) ところが, 一方の米粒の間隔を変えるだけで, Per は, 長い方が多いと判断し, そのあとでは逆に, 短くつまっているほうが多いと判断する.

これから次のことがわかる. Per は, "長さ"や"つまりぐあい"という視覚的認識でものの多少を判断しており, "一対一対応"のような, 頭の中での操作を要求する認識はまだ十分確立していない. 最初 Per が手本と同数の米粒を並べたのも, 実は, 一対一対応によってではなく, 「"長さ"も"つまりぐあい"も同じに並べたらまちがいなく等しい」という判断によったのかもしれない. また, Per は「並べる形を変えても個数は変わらない」ということ(数の保存)を, まだ十分認識していない, と言ってもよい. ただし, Per は最後には目による対応づけに成功したので, もう一息の段階だろうが.

ピアジェは, この種の実験を多くの子どもに行い, その数認識の発達段階を3段階に分けている. 第1段階では, 上の実験について言えば, 最初に手本と同数のものを並べることも難しく, 第3段階では, 一対一対応ができて, 形を変えても個数は変わらないと認識している. 上にあげた Per の例は第2段階で, 第1と第3の中間段階. 4才から7才くらいにかけて, この3段階を進むが, 各段階を通過する年齢には個人差がある.