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動詞の数と数の動詞化

数によって変化するのは名詞だけではない. 動詞も変化する. たとえば, 英語の動詞は主語が単数か複数かで変化する.

主語が単数主語が複数
be動詞I am ....We are ....
He (She) is ....They are ....
一般動詞He (She) goes ....They go ....

こうした動詞の変化が生まれた理由は憶測さえ難しいし諸説を調べたこともない.

数による動詞変化のもっと多彩な一例を示そう. 「ものに張りついた数」に挙げたキワイ島の言語では, 主体の数だけでなく, 主体が働きかける客体の数によって, 動詞につく接尾語が変化する.

接尾語主体客体
rudo過去2
rumo過去
durudo現在2
durumo現在
amadurudo現在22
amarudo過去22
amarumo過去2
ibidurudo現在3
ibidurumo過去3
など.
(レヴィ・ブリュル「未開社会の思惟」岩波文庫, 上 p.178)

この例のような言語が, 古い時代の言語の特徴をよく残しているとするならば, 大昔の言語は, 動詞の表す動作の"質"に敏感だったのだと思う. "質"とは, たとえば, 動作の主体客体の数や動作の時の差異である.

上例では, 動詞が数を表現したが, 次例では, 数が時制と人称をもつ動詞になっている. 

北アメリカのミクマク族の言語について・・・・・・・・
(2を意味する語"tahboo"の変化の一部)
現在1人称tahboosee-ek我々は2人である.
2人称tahboosee-yokあなた方は2人である.
3人称tahboo-sijik彼らは2人である.
未完了過去1人称tahboosee-egup我々は2人であった.
2人称tahboosee-yogupあなた方は2人であった.
3人称tahboosee-sibunik彼らは2人であった.
未来3人称tahboosee-dak彼らは2人であろう.
等々
(レヴィ・ブリュル「未開社会の思惟」岩波文庫, 上 p.251)

この例についても, 私には, 引用する以上の判断はできないが, とても興味深い。